遺言書の本文全体に故意に斜線を引く行為は遺言の撤回になるか?


遺言は、遺言者の最終の意思表示について、その者の死亡と同時に法的効果を生じさせる制度です。遺言者の最終の意思表示とはいっても、遺言者はいつでも遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができます。

撤回の方法は、①前の遺言を撤回する旨の遺言をする、②前の遺言に抵触する内容の遺言をする、③前の遺言に抵触する生前処分その他法律行為をする、④遺言書を破棄する、⑤遺贈の目的物を破棄する、です。

この遺言の撤回について争いになった事案をご紹介します。

遺言者は昭和61年6月22日、自筆証書遺言を作成し、平成14年5月に死亡しました。その後遺言書が発見されましたが、その時点で、その遺言書には、文面全体の左上から右下にかけて赤色のボールペンで1本の斜線が引かれていました。この斜線は遺言者が故意に引いたものでした。この状況下で遺言によりメリットを受ける相続人とそうでない相続人との間で、遺言の効力に関しての争いが起こりました。

原審では、斜線が引かれた後も遺言書の元の文字が判読できる状態である以上、遺言書に故意に斜線を引く行為は、民法1024条前段の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当しないとして、遺言書の有効性を肯定しました。

しかし、最高裁では原審の判断は是認することはできないとされました。

民法によると自筆証書遺言に改変等を加える行為が遺言書中の加除その他変更に当たる場合には、968条2項所定の方式(自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない)を遵守したときに限って変更としての効力を認める一方で、それが遺言の破棄に当たる場合には、遺言者がそれを故意に行ったときにその破棄した部分について遺言を撤回したしたものとみなすこととしています。

そして、当事案の斜線が引かれた後も遺言書の元の文字が判読できる状態であれば、968条2項所定の方式を具備していない限り、抹消としての効力を否定するという判断もあり得るとしながらも、赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は、その行為の有する一般的な意味と照らして、その遺言書の全体を不要のものとして、そこに記載された遺言のすべての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であるから、その行為の効力について、一部の抹消の場合と同様に判断することはできないと判断されました。

結果、赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は、民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであり、これにより遺言者は当該遺言を撤回したものとみなされる、従って、当該遺言は効力を有しない。と判示されました。(平成26年第1458号遺言無効確認請求平成27年11月20日第二小法廷判決より)

ここから学ぶべきことは、法的効力を有する遺言を作成する場合、変更する場合、撤回する場合はしっかりと法的要件を満たす必要があり、相続士もこの点を押さえてアドバイス支援する必要がるということです。争いを避けるために作成する遺言が争いの元になっては話になりませんから・・・。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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