認知症の相続人の権利の時効 その1

今回は判例をご紹介したいと思います。

被相続人が作成した遺言の内容が「長男に全て相続させる」というもので、遺留分を侵害された被相続人の配偶者が長男に対して遺留分減殺を求めたものであり、配偶者の遺留分減殺請求権が時効によって消滅したか否かについて争われたものです。

以後、配偶者をA、長男をBと表現します。

まずは時系列でみてみます。

平成19/01/01 被相続人がBに全て相続させる遺言を作成

平成20/10/22 相続開始    この時点でAは相続の開始と遺言内容が減殺できるものであることを知っていた

平成21/06/30 Aが任意後見契約をしていた弁護士Yが任意後見監督人の選任申立てをする

平成21/07/24 Aが任意後見契約を解除、前記Yのした申立ては取り下げとなる

平成21/08/05 二男らがAについての後見開始の審判の申立てをする

平成22/04/24 Aについての後見が開始の審判が確定し、弁護士Kが成年後見人に選任される

平成22/04/29 弁護士KはAの成年後見人として、Bに対してAの遺留分について遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした

以上の内容を元に原審では、Aが相続の開始を知ったっときを平成20年10月22日とするAの遺留分減殺請求権の消滅時効について、時効期間の満了前に後見開始の審判受けていない者に民法158条1項は類推適用されないとして時効の停止の主張を排斥し、遺留分減殺請求権の時効消滅を認め、Aの請求を棄却すべきものとしました。

(平成25年第1420号遺留分減殺請求事件平成26年3月14日第二小法廷判決より)

ここで、ポイント解説させて頂きます。

争点になっている遺留分減殺請求権の消滅時効ですが、遺留分権利者が相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効によって消滅します。この事案の場合、平成20年10月22日には時効の起算点となる要件は満たしています、ですから通常であれば1年間行使していないので時効を迎えます。

しかし、ここで待ったをかけようとしているのが民法158条1項の存在です。民法158条1項とは、時効の期間の満了前6箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人の法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人対して、時効は完成しないというものです。

この民法158条1項が類推適用されれば、Aの遺留分減殺請求権は時効により消滅しないということになります。

さて、最高裁ではどのような判断がされたのでしょうか。

次回に続きます・・・。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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