相続・贈与と考える詐害行為(取消権)

詐害行為とは債務者が債権者を害することを承知の上で行った法律行為のことで、債権者はその法律行為の取り消しを裁判所に請求することができます、これを詐害行為取消権と言います。

相続や贈与を考える上で、負債との関係で少しでも法律をかじったことのある人は詐害行為という言葉が頭をよぎるのではないでしょうか。

今回は詐害行為(取消権)のポイントと相続・贈与との関係を少しだけお話ししたいと思います。

詐害行為取消権の成立要件は、

1.債権者側の要件として、

①被保全債権が金銭債権である。

②被保全債権が詐害行為前に成立していた。・・・これ、結構ポイントですね!

※被保全債権とは、この場合、詐害行為取消権によって確保される(守られる)債権のことを言います。

2.債務者側の要件として、

①債務者が無資力である。

②財産権を目的とする法律行為である。・・・婚姻や離婚、認知、養子縁組等は身分行為となります。

※無資力とは、この場合、債権者に完全な弁済をなし得ない状態になることを言います。

2つの事例で考えてみたいと思います

事例1)相続人の相続放棄と遺産分割協議・・・相続人の負債との関係

相続人Aが債権者Xに対して代金債務を有している場合、相続人Aが債権者Xに代金を弁済するのに十分な財産がないことを承知の上で、相続放棄をし、共同相続人Bが全遺産を相続することになったとしても、債権者Xは相続人Aの相続放棄の取り消しを裁判所に請求することはできません。

相続放棄は詐害行為取消権の対象となりません。

一方、相続人Aが債権者Xに対して代金債務を有している場合、相続人Aが債権者Xに代金を弁済するのに十分な財産がないことを承知の上で、共同相続人Bとの間で全遺産を共同相続人Bが相続する旨の遺産分割協議を行った場合、債権者Xはこの遺産分割協議の取り消しを裁判所に請求することができます。

遺産分割協議は、詐害行為取消権の対象となり得ます。

事例2)贈与税の配偶者控除利用・・・詐害行為となるのか

自営業のAさんは自分の相続開始時のことを考え、自分名義の自宅土地建物を奥さんに贈与することを検討していました。自営業であるAさんは経営が悪化して債務を負った時にこの奥さんへの贈与が詐害行為取消権により取り消されてしまうのではないかと懸念していました。さてこの場合どうなるのでしょうか。

詐害行為取消権の債権者側の要件を先述していますが、その一つに、被保全債権が詐害行為前に成立していたこと(被保全債権の方が詐害行為より先に成立していた)、があります。

ですから、このケース場合、奥さんへの贈与(詐害行為)が債務を負う前(被保全債権成立前)であればこの贈与は詐害行為取消権の対象にならない(被保全債権の方が詐害行為より後の成立)ということになります。

詐害行為取消権が成立するか否かは、債権者側と債務者側の要件を満たしているか否かを確認する必要があります。

負債と詐害行為との関係、相続や贈与を考える上でたまに出てくる問題です。しっかりと専門家に確認しておくと良いでしょう。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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