配偶者の相続分に関する考察
皆さんご存知の通り、配偶者の法定相続分は2分の1です。これを引き上げようという案が「法制審議会」で検討されていましたが、実現困難と判断され、代わりに「結婚20年以上の夫婦の場合に、住宅贈与が優遇」される案が示されました。
配偶者の相続分に関しては常に優遇されるように法改正が進められています。なぜでしょうか。
まず基本となる考え方が、「夫婦の財産は夫婦が共同で作り上げてきたもの」ということです。もちろん、各々が婚姻前から保有している財産や親からの贈与・相続によって取得した財産(特有財産)などもありますが、婚姻後に購入した財産は、夫婦のどちらかに属することを明らかにしなければ、夫婦の共有財産と推定されます。これは「夫婦財産制」の中の「法定財産制」ですが、これ以外にも、婚姻から生じる費用の分担や日常家事に関する連帯債務などがあります。
つまり、婚姻後の夫婦の財産は、特定財産を除き、プラスもマイナスも共有していくことになり、万が一離婚となった場合には「婚姻中の財産の清算」が行われる性質のものなのです。
こういう背景を元に配偶者の相続分の優遇措置が取られていくのではないでしょうか、そこにプラスして夫婦の一方が亡くなった後に遺された配偶者の生活基盤の確保という課題もあります。
相続が開始するときは相続人である配偶者は高齢者となり、子供たちもいい歳となってそれぞれに家庭の事情を抱えていることが多いので、「少しでも多く貰いたい」という欲が出てきやすくなります。
そうなると、特に相続人である子が複数人数いる場合、高齢者である親そっちのけで子供達主体の遺産分割になる可能性も否定できません。この場合の親(特に母親の場合)は、高齢であることに加え、連れ合いを無くした直後ということもあり、今までのような親の威厳を保てなくて、結局子供達の決めた遺産分割に同意してしまうなんてこともあり得ます。
私も遺産分割のアドバイスをするときに必ず言います、「配偶者の生活基盤の確保を必ずしてください」と。実務上はもっと詳しく話しますが、今回は割愛させていただき、別の機会にまたお話しさせていただきます。
以上のようなことを考えると、配偶者の相続分の優遇措置というのは十分価値のあるものだと言えると思います。しかし、これは長年連れ添った夫婦だから価値のあるものなのです、ですから、今回の改正案も20年以上という期間を設けています。
では、20年に満たない夫婦の場合はどうでしょう。今回の改正案だけでみると対象外ですよね、19年の夫婦も1年の夫婦も同じ扱いです。
この辺に微妙な感覚が出てくるのは私だけでしょうか。
同じような感覚があるのが、配偶者の法定相続分です。
20年以上でも2分の1、1年でも、1ヶ月でも、もっと言えば1日でも2分の1です。
これが大きな争いを巻き起こすことがあります。実際に相続の現場では、遺産目当ての入籍と言われ、子らの相続人と争いになるケースがあります。
このような場合には、法定相続分にとらわれず、相続権はあるものの入籍間も無い配偶者には相続分を低く抑えてもらうなどの対処が必要になってくると思います。そうでないと、おそらく、遺産分割協議はまとまらず、家裁への扉が開くことになりかねません。ある意味地獄道です。
このようなケースの場合に、柔軟に対応方法を考え、ある程度の幅の中で着地点を見出し、相続人全員の納得を得る、という作業を行うプロが必要です。
ある法律の専門家は、法定相続分の主張は権利だからと、頑なにそこから離れようとせずに、訴訟に持ち込んでしまうこともあります。
また、ある法律の専門家は、相続人は自分の思い通りにいかなければ納得しないから、と着地点を見出そうとしないこともあります。
法律だけでは人は納得しません、感情がありますから。
そこを踏まえて遺産分割協議の場に立てる本当のプロが必要になってきます。
現在は案となっている配偶者の優遇措置がいつ始動するか不明ですが、それに伴い、トラブルとなる要素もプラスされてくることを忘れてはいけないと思います。
今回は配偶者の相続分について、プラスマイナス合わせて、思いつくままに綴ってみました。
いかに争わずに済むか、相続を考える上での命題です。
このページのコンテンツを書いた相続士
- 行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所
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