遺産分割・・・認知症の配偶者と子が相続人のケース

相続が開始した時に一番頭を悩ませるのは、被相続人の遺産を誰がどのように承継するかという問題です。まさしく遺産分割問題です。世間で相続は揉めるというのは、この遺産分割問題そのものです。

この遺産分割問題、誰が、何を、で揉めるのは相続人が元気だから揉めることができるのですが、1人でも相続人が元気でなかったらどうでしょう。

揉める前に、その相続人の対応で頭を悩ませるのではないでしょうか。

それにより遺産分割自体が遅れる可能性もありますし、ましてや相続税がかかることが明確な場合には相続開始後10カ月以内に申告を済ませなければなりませんから、その前に遺産分割を済ませなければならないということになります。

仮に遺産分割が済んでいない場合には法定相続分で分けたとして申告するという方法もありますが、遺産分割終了後にもう一度申告しなければならないという手間と費用(費用は税理士に依頼した場合です)がかかりますので、できれば避けたいものです。

では、この相続人が元気でない場合とはどういう場合でしょうか、今回は「認知症」ということでお話ししたいと思います。

 

<事例>

父親が亡くなり、母親と1人息子が相続人。母親は認知症で要介護5。今まで父親が面倒を看てきたため1人息子は一切関わっておらず、別の場所にマンションを借りて生活をしていました。また、父親が面倒を看ていたので成年後見制度も利用していませんでした。

遺産は父親名義の自宅不動産と預金1,000万円。

相続人は認知症の母親と1人息子の2人です。

1人息子の考えとしては、今後のこともあるので、自分が成年後見人になって母親を代理して遺産分割協議を行い、自宅不動産を自分の100%の名義にして、遺産である預金1,000万円も自分の名義にしながらも母親のために使おうということでした。

 

<相続士の視点から>

息子さんが成年後見人になるための手続きを行うということは良いことだと思います。

認知症で要介護5ということは、今後介護施設への入居も考えなければいけない状況です。この場合、契約等の法的手続きは成年後見人として息子さんが行うことができるからです。

ここで注意が必要なのは、成年後見の手続きを取る際に「後見人候補者に息子さんの名前を記載する」ことを忘れないということです。

成年後見人の選任は家庭裁判所が行いますので、第三者である法律の専門家が選任されることもありますが、候補者名を書いておくことでそれを考慮して選任を行なってもらえます。

他に相続人がいて反対する等の争いの要因がなければ、希望を考慮してもらえる可能性は高いと思われます。ただ、あくまでも家庭裁判所が決定しますので、確実とは言えません、その点はご了承いただくと同時に、当人もその旨理解しておく必要があります。

さて、息子さんが成年後見人に選任された場合、息子さんが考えるように遺産分割を母親を代理して行うことができるでしょうか。

答えはノーです。

成年後見人は成年被後見人を代理して法的手続きを行うことができます(代理権といいます)が、代理権には制限があり、その一つが「利益相反行為」です。

「利益相反行為」に該当する場合には、成年後見監督人が選任されていないとき、家庭裁判所に「特別代理人」の選任手続きを行い、「特別代理人」が母親を代理して遺産分割協議を行うことになります。

面倒ですが、正規の手段で手続きを行なって、しっかりと遺産分割をした上で移転登記等の相続手続きを済ませて、これからの生活を考えていくほうが良いと思います。

以上のように、相続人の中に認知症の方がいるなど事情があるケースでは遺産分割もなかなかうまくいかないということもあります、専門家に相談して、相続開始前に準備をしておく必要もあるでしょう。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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