ハイブリッドな専門家が必要なわけ
「相続専門」の看板を掲げている専門家は多くいますが、蓋を開けてみると「相続の中の不動産について」や「相続発生後の税務申告について」、「相続発生後の不動産登記について」、「相続準備のための生命保険について」など、相続という大きな括りの中の小さな専門分野であるということも珍しくありません。
そういう専門家たちは多くの場合自分の専門分野以外に関しては疎く、相談者からの質問に関して「今度お会いするときに提携している専門家をご紹介します」という対応の仕方になってしまいがちです。
それならまだ良い方で、その件は専門外ですからその分野の専門家に聞いてくださいだとか、或いは、自分の浅い知識でさも専門家気取りで答えてしまうなんてこともあり得ます。
このような専門家に相談や依頼をしても、先述の小さな専門分野のピンポイント相談や依頼を除き、なかなか上手くいかない、或いは、満足のいくフィードバックがないのではないでしょうか。
「相続」という言葉は短く簡単な言葉ですが、「相続の中身」は非常に広範囲にわたり、小さな専門分野一つではとても賄いきれません。
中心となる軸をもとにいくつかの専門的知識と経験に裏付けされた、いわゆる「ハイブリッドな専門家」が今後は必要になってきます。
例えば、遺言作成の相談がきたとします。従来の専門家は「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の違い、「公正証書遺言」の優位性を説明して、「公正証書遺言作成依頼」を受け、「公正証書遺言」が完成したら終わり、というのがオーソドックスなパターンではないでしょうか。
つまり、「公正証書遺言の作成」しか見ていないのです。もちろん、それが依頼ですからそれに応えるということで間違いないのですが、平均寿命が延び、超高齢化社会へと邁進している現在の社会情勢ではもうひと声欲しいところです。
この場合、相続関係説明図を作成して遺言者の家族関係、或いは、親族関係を確認して、遺言内容との照らし合わせをしているかという点もポイントになってきます。
遺言者を取り巻くリスクについて、家族や親族で賄えるのか、それとも第三者の助けが必要なのか、場合によっては遺言作成以外の対策も必要になってくるところです。
万が一にも遺言者が認知症等になって詐欺等で財産を失ってしまうなんてことがあれば、遺言作成は全く無意味なものになりかねません。
この例で言えば、遺言(作成のみならず執行に関しても)の知識だけでなく、それに係らせて成年後見制度の知識や事務委任契約の知識があるのか、更には財産に不動産があるのであれば不動産の知識があるのかという点がポイントとなります。
行政書士や司法書士などは遺言の知識は多かれ少なかれありますし、事務委任契約についても同様です、しかし、多くの場合それは単体の知識であって複合的に設計し運用していく知識や経験には乏しく、行政書士にあっては不動産の知識までは持ち合わせていないのがほとんどかもしれません。
税理士は税務の知識だけではなく不動産の知識はもちろん、遺言などの知識も求められます。
宅建士も不動産の知識だけではなく、税務や遺言などの知識も今後は求められてきます。
誤解しないで頂きたいのは、すべてを一人で行うために多くの知識が必要だと言っているのではなく、相続の窓口として相談や依頼を引き受け、その依頼された案件をどのようにマネジメントをしていくか(どのように専門家を関わらせていくか)判断していくために必要だと言っているのです。
ここで敢えて「知識」と言っているのは、モノによっては運用まではできないものがあるからです、例えば、税務の知識があっても税理士以外は申告業務はできませんし、不動産登記に関しては知識があっても司法書士以外はできません。しかし、運用できるくらいの知識がないと、税理士や司法書士をマネジメントしていくことはできませんので、ある程度のレベルが欲しいところです。
以上、ハイブリッドな専門家の必要性について概要をお話ししてきましたが、「相続士」の基本である「遺産分割(民法)」、「税務(税法)」、「不動産」、「保険」の4分野を学ぶことは「ハイブリッドな専門家」への入り口になることと思います。
そのあとは個々の努力次第ですが、、、。
このページのコンテンツを書いた相続士
- 行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所
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