相続における夫婦間贈与の利用価値

相続対策と一口に言っても様々なものがあります、その中の一つに生前贈与という方法がありますが、一般的に採り挙げられているものの多くは子供や孫に対する贈与です。

生前贈与を考える上で子供や孫など直系卑属を対象にするのは当然のことですが、相続開始後に1人遺されてしまう配偶者のことも考える必要があるのではないかと思います。

遺された配偶者のこととは、大原則として配偶者の生活基盤の確保です。

遺された配偶者も高齢になっていることが多く、新たに生活基盤を築くことは困難であるといえます。

今回の民法の改正で「配偶者居住権」という制度が新設されましたが、これに関しては別の機会に改めてお話しするとして、今回は別の新設措置である「婚姻20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置」についてお話ししたいと思います。

「居住用不動産」つまり「自宅不動産」ということになりますが、今までもそしてこれからも住み続ける場所であり、生活環境の基盤であることは間違いありません。そして、多くの場合、夫婦2人で作り上げ維持してきた生活の基盤です。

これが、相続を機に壊れてしまうケースがあり、相続における問題の一つとなっていました。

何故壊れてしまうのか、それは遺産分割という権利の主張の場が引き起こす悲劇ともいえるのかもしれません。

例えば、父が亡くなり母と子供2人が相続人で、遺産は自宅不動産と預貯金少々というケースで、

子供2人はすでに独立し自宅も保有していて自分の子の教育費や住宅ローの支払いで大変な思いをしているような状況で、相続が開始して、少しでも多く貰いたい、法定相続分は確保したいなどと自分の権利の主張を通そうとしたら、遺産に現金が少なく、公平に分けるために不動産を現金化しようというような話になった場合には、母は住み慣れた家を売却して現金を作らなくてはならなくなってしまうかもしれません。母の生活基盤は失われます。仮に、遺言で母に自宅不動産を相続させようとしていた場合でも、遺留分減殺の問題が発生してしまうと自宅不動産を売却ということもあり得ます。

このようなケースは珍しいことではないので、予てから「遺された配偶者の生活基盤の確保」というものが問題視されてきました。

今までも居住用不動産を配偶者に生前贈与した場合の相続税法上の特例は有りました。婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭贈与がなされたとき、基礎控除110万円の他に最高2,000万円まで控除できる、という特例です。

しかし、生前贈与が行われた場合に生計の資本としての贈与となると特別受益に該当して、遺産分割時に持戻しをして相続分を計算しなければならず(これは民法上の問題です)、これによって、配偶者の相続分が少なくなり、生活基盤の一つである現金の取得分が微々たるもの、あるいは、無くなってしまうこともありました。居住用不動産の生前贈与の最大のネックであったともいえます。

しかし、今回の民法改正で、「婚姻20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置」が採られ、「被相続人が異なる意思表示をしない限り、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項(特別受益の持戻し)の規定を適用しない旨の意思表示をしたものと推定する」ことになりました。

これによって、前述したような特別受益の持戻しによる不都合も解消され、遺された配偶者の生活基盤が確保されることになります。

この優遇措置は今年の7月1により施行されます、相続税法の特例と合わせて、上手く活用していければ良いと思います。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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