「相続させる旨の遺言」と対抗要件の関係性の変更

相続において一番の問題は、遺産の分割方法をどうするかということですが、遺産分割協議がまとまらない場合には法定相続分に応じた分割等を検討されることになります。

民法(相続法)においては、「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する(第899条)」とあります。つまり、持分は相続分によって決まるということになりますから、遺産の中に不動産がある場合には、法定相続分に応じた所有権の承継が原則となるということです。

この原則を変更することができるのが遺産分割協議であり、遺言者が生前に作成した遺言であるということは既にご存知のことかと思います。

そして、いわゆる「相続させる旨の遺言」により特定の相続人が遺産である不動産の承継を指定された場合には、登記なくして第三者に対抗できるという判例により、当該相続人は相続債権者等の第三者に対して、当該不動産の移転登記をしていない場合でも、自身の権利を主張し、差し押さえ等の無効を主張できた(対抗することができた)のが、令和元年6月末日までのお話です。

改正相続法が施行された令和元年7月1日より、この判例を覆す規定が施行されました。

その規定というのは新設規定で、「相続における権利の承継は、遺産分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない(第899条の2第1項)」というものです。

「相続させる旨の遺言」(「特定財産承継遺言」という略称がつきました)により特定の相続人が遺産である不動産の承継を指定された場合、「法定相続分を超える部分」に関しては、登記なくして第三者に対抗することができなくなりました。

相続人が長男と二男の二人だけの場合、「甲不動産を長男と二男に持分2分の1(50%)ずつ相続させる」という遺言内容であれば、法定相続分通りなので、長男も二男も登記をしなくても自身の権利を第三者に主張する(対抗する)ことが可能ですが、「甲不動産を長男に持分100%で相続させる」という遺言内容のときは、長男の法定相続分2分の1(50%)を超えているので、「その法定相続分を超えた部分(本来であれば二男の持分である50%)」に関しては登記をしなければ第三者に自身の権利を主張する(対抗する)ことができないということになります。

例えば、「甲不動産を長男に持分100%で相続させる」という遺言があった場合、長男が移転登記をする前に、第三者である二男の債権者が二男の持分2分の1に対して差し押さえをしたとき、長男は第三者である二男の債権者の差し押さえに対して無効を主張することができず(対抗できず)、その差し押さえは有効なものとなってしまい、長男はすんなりと甲不動産の全ての所有権を取得することができなくなってしまうわけです。

相続法の改正により今までの判例が覆された例ですが、相続における移転登記の重要性が見直されるきっかけになるのかもしれません、また、この新設規定に伴い、対抗要件を具備する行為を遺言執行者ができるようになった(但し、改正法施行以降に作成された遺言から適用)ことも見逃せないポイントです。

相続法改正、専門家に相談してみてください。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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