代襲相続人の権利と義務
法定相続の中には代襲相続という制度があります。代襲相続によって相続権を取得した者を代襲相続人といいます。直系卑属の場合には何代も代襲相続は続きますが、兄弟姉妹の場合には代襲相続は一代限りとなります。被相続人の直系卑属が先に亡くなっていた場合にその者に子が、更にその子が亡くなっていた場合にはさらにその子に、というように、被相続人の直系卑属である子や孫・曽孫は代襲相続が続きますが、被相続人の兄弟姉妹が相続人である場合に起こる代襲相続はその兄弟姉妹の子までの一代限りで、兄弟姉妹の孫には代襲相続は発生しません。
代襲相続の発生原因となるのは、被代襲者の死亡、廃除、欠格です。相続放棄の場合には代襲相続は発生しません。
代襲相続によって相続権を取得した代襲相続人の相続権は被代襲者が取得すべき権利の承継であって、それ以上の権利を取得することはできません。例えば、被代襲者の相続分が4分の1だった場合には代襲相続人の相続分も4分の1であり、相続分4分の1である1人の被代襲者に対して代襲相続人が2人いるときは、代襲相続人1人あたりの相続分8分の1となります。
代襲相続人であっても必ずしも被代襲者の権利を全て承継できるとは限りません。判例によると、遺言による指定があった場合に、受遺者となる相続人が相続開始前に死亡していたとき、受遺者となる相続人に代襲相続人がいても、遺言にその旨(相続開始前に受遺者が死亡していた場合にはその代襲相続人に相続させる)記載がないと、原則その遺言事項は無効となり、当然に代襲相続人が権利を取得できるわけではありません。ただし、遺言者の意思が当該相続人が先に死亡した場合、当該遺産を代襲相続人に相続させるというものであったと認められるような特段の事情がある場合に限って代襲相続を認めるというのが判例の立場です。ですから、遺言作成の時には、遺言者や相続人の状況等を鑑み、場合によっては、補充遺言にて代襲相続させるようにしておく必要があります。
次に、代襲相続人に義務についてですが、負債等を承継した場合の債務履行義務、相続放棄をした場合に次の順位の相続人が遺産を管理し始めるまでの管理義務などがあります、その他特に法定されていないことですが大事な義務があると思います。これは代襲相続人に限ったことではなく、代襲相続人を含む相続人の義務であると思いますが、今回は代襲相続人の義務としてお話しさせて頂きます。
それは何かと言いますと、”被相続人の全てをきっちりと終わらせてあげること”です。
相続人が被相続人の配偶者や子供であれば、相続開始後の日常生活の中で、被相続人に関するあらゆる事柄を整理していくことになりますので、あまり意識することではないのですが、
代襲相続人の場合、特に関係性が薄い場合には、”被相続人の全てをきっちりと終わらせてあげること”という義務の履行がされづらい、あるいは、一部の相続人に偏ってしまうことがあります。
例えば、被相続人には子供がなく、配偶者にも先立たれ、兄弟姉妹もすでに他界していて相続権を有するのは兄弟姉妹の子供、つまり被相続人の甥・姪だけ(代襲相続人だけ)というケースは比較的よくあることです。
このようなケースでは、被相続人の自宅の整理(遺品整理)はどうするのか、不動産に所有権があった場合にはどうするのか、お墓を持っていた場合にはどうするのか、などの問題が出てきます。先に述べたように、相続人が被相続人の配偶者や子供である場合には問題なく行われることですが、相続人が代襲相続人だけである場合には問題点となりやすいところです。
自宅の整理(遺品整理)をするにも業者の手配・立会等の手間隙・費用がかかります。所有権のある不動産は遺産となりますので分割の対象となりますが、売却するにもやはり手間隙・費用がかかります。お墓を持っていた場合には、お墓を終わらせる手続きを取らなければなりません。
このように、単純に遺産を取得するだけではなく、”被相続人の全てをきっちりと終わらせてあげる”ためにやることが多くあるわけです。これを軽視してしまうと単なる”笑う相続人”になってしまいますから、相続権を主張する者には”義務”も付帯するということを理解しなければなりません。
プラスの遺産を貰うというのは一種の”棚ぼた財産”になるわけですから、ありがたく承継させて頂くという気持ちを持って、被相続人の最後をしっかりと締めくくって欲しいと思います。
このページのコンテンツを書いた相続士
- 行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所
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