登記が義務になると遺産分割との関係でどうなるのか
相続開始後の各種手続きの中で最大の山場となるのが”遺産分割”です。その話し合いである”遺産分割協議”がなかなかまとまらずに争いになってしまうので、相続は”争族”や”争続”と揶揄されてしまうのです。
この相続の核心ともいえる”遺産分割”がまとまらずに遺産の対象である不動産の帰属先が決まらず放置された状態となるのが、”空き家”発生の原因であるともいえます。
また、遺産分割がまとまらないわけではなく、単純に不動産を”そのまま放置”という状態(移転登記の手続きをしない)もあります。これは特に相続税の申告が不要な場合に起こりやすいといえます。相続税の申告が必要な場合は税理士が関与する確率が高いので、不動産の移転登記まで案内することが多いと思われるからです。
不動産を”そのまま放置”ということは、「相続による不動産の移転登記手続き」を行わないことですから、既に亡くなった方の名義のままになっているということです。
放置しておいても、ほとんどの場合、何の不都合も生じないので面倒な手続きを回避してしまうのが人の心理ではないでしょうか。
そして、そのまま放置しておくと、例えば、次の相続、また次の相続、というように相続が続くと手続き自体も煩雑になっていくため、専門家でない限り、手をつけられない状態となり、結果的に所有者不明の不動産につながる可能性が出てきてしまいます。
このように相続を原因として”所有者不明の不動産”の発生を回避するため「登記を義務付ける」という動きが出てきています。
現在、法制審議会で検討され、来年秋にも関連法改正案が国会に提出される予定のようです。仮に時期がずれたとしても、数年のうちに「登記が義務付けられる」ことになるのではないでしょうか。
相続手続きの中で不動産の移転登記(名義を被相続人から相続人に変更すること)手続きは、一般の人にとっては煩雑で分かりづらく、面倒な手続きであるといえます、不動産登記の専門家である司法書士に依頼するにも、費用がプラスで必要になってきてしまうので、何となく先延ばしにしてそのままになりがちです。
その登記手続きの障害と言える煩雑な手続きを簡素化し、費用も軽減するという改正案のようですが、「義務を知りながら一定期間放置していた場合」には「過料を科す」という罰則も盛り込まれるようです。
まだこれから意見公募を行い、内容を詰めていく段階のようですから、どのような内容で決まるかは不明ですが、仮に「義務を知りながら一定期間放置していた場合」には「過料を科す」ということが決まった場合には、相続の現場に新たな問題というか課題のようなものが発生してしまうのではないかと思います。ここでいう「一定期間」がどのくらいの期間となるかにもよりますが、その期間内に遺産分割協議をまとめ、移転登記をしなければ「過料を科されてしまう」ということになると、その期間内に遺産分割を行わなければならなくなります(過料が科されることになった場合に、共同相続人間で責任追及争いのようなことが起こらないとも限りません)。
民法では、「共同相続人は被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で遺産の分割をすることができる」と定めています。要は、遺産分割の期間は定められていないということです(因みに、遺産分割請求権は時効による消滅はありませんが、相続回復請求権は時効による消滅があるため期間制限があります)。
更に、「被相続人は遺言で、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて遺産の分割を禁じることができる」とも規定されています。
「登記義務、過料」に係る「一定期間」と民法の「遺産分割に関する規定」との関係をどのように調整するのか、単純に改正関連法を民法の特別法という位置づけなのか、いずれにせよ、登記が義務付けられ、「一定期間」という期間が設定されることになると思われます。
現在、相続税法との関係で「10ヶ月」という期間制限がありますが、相続税に関係する相続の場合は、よっぽど揉めなければ、この期間内に遺産分割協議を終わらせて、相続手続きを全て終わらせるというある種の目標的な期間となっていて、ある意味、争いの長期化を防ぐ効果があるともいえます。
登記が義務付けられることで、不動産の所有者不明という問題を今後増やさなくするという効果が期待されますが、それに係る期間の設定(「一定期間」)が、相続税法の「10ヶ月」のように、遺産分割をまとめる目標期間のような役割を果たせるようなものになれば良いと思います。
このページのコンテンツを書いた相続士
- 行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所
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