配偶者居住権と配偶者短期居住権
「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」、”短期”という言葉がついているか否かだけの違いのように見えてしまいますが、本質的な部分で異なる二つの権利、4月1日から施行されていますこの二つの権利の違いについて概要をみていきたいと思います。
「配偶者居住権」は、住み慣れた居住環境での生活を維持するために居住権を確保しつつ、その後の生活資金として居住権以外の財産についても一定程度確保し、配偶者のその後の生活を維持することを容易にすることが期待できるというものです。
つまり、それまで住んでいた住居に住み続けることができ、その後の生活のための資金を一定程度確保できるので、相続開始後の配偶者の生活基盤を維持していくことが可能となるということです。
「配偶者居住権」を取得できるのは、法律婚の配偶者のみで事実婚の配偶者は取得できません。
居住建物は配偶者自身が相続開始時に居住している被相続人の財産に属しているもので、被相続人単独所有か配偶者との共有のものという取得条件があります。当該居住建物が被相続人と第三者が共有している場合は「配偶者居住権」は成立しません。
取得方法は、遺産分割による取得若しくは遺贈による取得となります。
そして、ここが遺産分割に関係してくるところですが、「配偶者居住権」の財産価値に相当する金額を相続したものとなります。この財産価値は所有権を取得した場合に比べて低くなりますので、その分他の財産(預貯金等)の取得分が増える(生活資金の一定程度の確保)ということが「配偶者居住権」のメリットの一つとされています。
メリットということでいうと、もう一つ、配偶者が「配偶者居住権」を取得するということは、所有権は別の相続人が取得するということです。この点注目して頂くと、例えば、再婚した被相続人に前妻との間に子がいて、その子に不動産を承継させたいという希望があった場合、現在の配偶者(後妻)には「配偶者居住権」を取得させて生活を守りながらも、不動産は前妻との間の子に承継させるというような、”後継ぎ遺贈型遺言”と同じような効果を持たせることも可能となります。
「配偶者居住権」の存続期間は「終身(配偶者が死亡するまで)」が原則ですが、遺産分割協議や遺言によって別の期間を定めることも可能で、その場合はその定めた期間満了で終了となります。
「配偶者居住権」は、遺産分割や遺言による相続分の指定において選択肢を増やすという趣旨であり、相応しい事案に限って利用すべきものとされていますが、やはりメリットばかりではなく、デメリットもあります。
例えば、「配偶者居住権」は譲渡することができないため当該不動産を売却することを考えている場合には「配偶者居住権」の存在自体が邪魔なものになりますし、固定資産税や通常の修繕費は配偶者の負担になりますので、その金額自体が生活資金の負担になる可能性もあります。
「配偶者居住権」を利用するか否かは、配偶者のライフプランや居住建物の属性なども含めてトータルで検討していかなければなりません。所有権の取得で不都合がないのであれば、所有権の取得が望ましいと言えるでしょう。
居住建物の所有権も「配偶者居住権」も取得しない場合に、配偶者は居住建物からすぐに出ていかなければならないのか、という問題が発生することがあります。例えば、被相続人が居住建物を第三者に遺贈し、所有権を取得した第三者が配偶者に対して退去を求めた場合などです。
このような場合、今までは拒むことができなかったのですが、今後は、一定の期間配偶者の居住権を保護する「配偶者短期居住権」が役立つことになります。
「配偶者短期居住権」は、配偶者の一方が死亡した場合に、他方の生存配偶者が当然に取得できる一定期間住み慣れた居住環境で継続して生活できる権利であり、遺産分割が終了するまでの暫定的な権利関係(遺産の共有状態)が生じている期間、特別に配偶者を保護するもので、居住建物から退去するまで一定の猶予期間を取得する権利ともいえます。
「配偶者短期居住権」を取得できるのは、法律婚の配偶者のみで事実婚の配偶者は取得できません。
居住建物は配偶者自身が相続開始時に居住している被相続人の財産に属しているもので、当該居住建物が被相続人と第三者が共有している場合であっても「配偶者短期居住権」は成立します。(ここは「配偶者居住権」と違うところです。)
そして、遺産分割において「配偶者居住権」と大きく違うところですが、「配偶者短期居住権」は配偶者の具体的相続分としてカウントされません、無償ということです。
その無償である「配偶者短期居住権」の存続期間は、「『遺産分割により居住建物の帰属が確定した日』又は『相続開始の時から6ヶ月を経過する日』の『いずれか遅い日』」、または、第三者への遺贈が行われた場合や配偶者が相続放棄した場合に、「居住建物取得者からの『配偶者短期居住権』消滅の申し入れの日から6ヶ月を経過する日」が終期となります。
「配偶者短期居住権」を行使しながらも遺産分割協議において所有権もしくは「配偶者居住権」を取得した場合には「配偶者短期居住権」は消滅するという関係にありますが、所有権もしくは「配偶者居住権」により、住み慣れた居住環境での生活を維持することができます。
反対に、被相続人の財産に属する居住建物に居住していた配偶者は相続開始と同時に「配偶者短期居住権」によって、一定期間の保護がありますが、所有権もしくは「配偶者居住権」を取得しなければ、保護されていた一定期間の終期には退去しなければならなくなります。
「配偶者短期居住権」は要件を満たせば当然に付与される権利ですが、「配偶者居住権」は遺産分割協議または遺贈により取得しなければならない権利となります、それぞれ細かな規定がありますので相続の専門家に確認をしてみてください。
このページのコンテンツを書いた相続士
- 行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所
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