遺言書保管法が施行されます

 昨年の1月から改正相続法が段階的に施行され、今年4月の配偶者居住権の施行により改正法の施行は全てされましたが、相続法の改正とともに関連する新たな法律として創設された「法務局における遺言書の保管等に関する法律(遺言書保管法)」がいよいよ施行(7月10日)され、法務局で自筆証書遺言を保管する制度が始まります。

改正相続法において自筆証書遺言の方式緩和が行なわれ、本文に添付する財産目録については自筆のものでなくても良く、パソコンによる目録の作成のみならず不動産登記事項証明書や預貯金通帳の写しでも認められるようになりました。

自筆証書遺言を作成する際に大変な作業となり得た財産目録の作成が容易になったことで、自筆証書遺言作成のハードルが下がり、遺言者にとっては簡易で自由度の高いものになりましたが、依然、自筆証書遺言ならではのリスクが残ります。

自筆証書遺言は公正証書遺言と異なり、作成や保管に関して第三者の関与が不要なために、遺言の効力発生後に遺言書の真正をめぐる偽造・変造問題や遺言者の遺言当時の意思能力・精神能力の問題などが原因で共同相続人間の争いとなり易いという特色(リスク)があります。

このようなリスクヘッジを考慮し創設された遺言書保管法は、様々な規定を設けています。

自筆証書遺言の保管を希望する場合には、遺言者自身が自ら遺言書保管所となる法務局に出向いて申請手続を行なわなければならず、付添人の同伴は可能ですが、代理人による申請や郵送による申請はできません。

遺言者本人が自ら出向いて申請手続を行なうことで、遺言保管所となる法務局において申請手続の事務を行なう遺言書保管官によって遺言者の本人確認が行なわれ、意思能力を欠く状態か否か、遺言者以外の者に偽装・変造されたものか否か等のことが推認されることになります。

申請手続の際には、①自筆証書遺言(ホチキス留めをしない、封をしない)、②遺言書作成日・遺言者の出生年月日・遺言者の住所及び本籍・受遺者と遺言執行者の氏名または名称及び住所等を記載した申請書、③申請書記載事項の証明書類としての本籍記載のある住民票の写し等、④本人確認書類、⑤申請手数料(1通につき3,900円)が必要です。

手続終了後、遺言者の氏名・出生年月日・遺言書保管所の名称及び保管番号が記載された「保管証」を受け取ります。後日、遺言書の閲覧、保管申請の撤回、変更届、相続人等が遺言書情報証明書の交付請求をするときなどに保管番号が必要になってきます。

こうして申請手続を行なって法務局に保管された自筆証書遺言は、相続開始時の家庭裁判所の「検認」手続不要という点が、遺言執行時における手続上の最大のメリットであるともいえます。「検認」を行なった場合には、「検認済証」により自筆証書遺言をもとにした遺言執行(不動産移転登記や各種手続)を行ないますが、自筆証書遺言の保管制度を利用した場合には、法務局発行の「遺言書情報証明書」を利用して遺言執行を行なうことになります。

「検認」手続きが必要無い制度ということで、使い勝手が良いようにみえますが、申請手続や遺言書情報証明書の発行手続などは、一般の方にとっては煩雑なものといえるかもしれません。

自筆証書遺言を作成して遺言保管制度を利用するのか、従来の公正証書遺言等の制度を利用するのか、遺言者自身の状態や生活環境、相続人の状況等の諸々を踏まえて、総合的に吟味したいところです。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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