損害賠償請求権の相続

 相続において被相続人の遺産を承継する際に、不動産や動産の他に「権利」というものも対象となることは言うまでもないことだと思いますが、今回は「権利」の中でも「損害賠償請求権」について、簡単ですが、お話ししたいと思います。

 不法行為に基づく損害賠償請求権は金銭債権の一種ですから「被相続人が有していた損害賠償請求権」は相続の対象となることは問題なくご理解いただけると思います。ここで、「被相続人が有していた損害賠償請求権」は問題なく、、、と言いましたが、被相続人が「損害賠償請求権を有する間も無く死亡した場合」はどうかという問題があります。つまり、「即死」の場合です。

「即死」の場合に損害賠償請求権が被相続人に帰属するのか、という問題です。

判例では、被害者が即死した事例において、被害者の死亡による逸失利益の賠償請求権の相続を認めています。ただし、被害者の死亡により影響を受ける関係に無くても逸失利益の損害賠償請求権の相続により多額の損害賠償金を受け取る「笑う相続人」が生じることなどを理由に、遺族は扶養利益の喪失等の固有の損害について賠償請求できるのみであるという学説も存在します。被相続人の妻子が相続放棄をした場合や相続権の無い事実婚の配偶者などの場合は、判例も、扶養利益の喪失等の遺族固有の損害についての賠償請求となることを認めています。

 以上のことから考えると、被相続人が「即死」した場合、逸失利益に関しては、被相続人と生活を共にし扶養されてきた妻子等は、被相続人の逸失利益の賠償請求権を相続し得るということになりますが、被相続人との関係性が遠い者が相続権を取得した場合や相続放棄した者、事実婚の配偶者などは被相続人の逸失利益の損害賠償請求権を相続するというよりは、その者たちが扶養利益を侵害されたことによる自己固有の損害を賠償請求し得るにとどまる、ということになると捉えておいたほいがいいのかもしれません。

 また、損害賠償請求権には「逸失利益の損害賠償請求権」の他に「慰謝料請求権」があります。

「慰謝料請求権」に関して、最高裁の判例においては、「被害者が請求権を放棄したものと解し得る特別の事情がない限り、損害の賠償を請求する意思を表明するなど格別の行為をすることなく、当然に慰謝料請求権は相続される」とされています。ただし、この慰謝料請求権に関しても遺族はその固有の慰謝料請求権をなし得るのみであるという学説もあります。

この学説の根拠となるのは民法第711条(近親者に対する損害の賠償)の「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権を侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない」という規定になります。この規定が存在するのは生命侵害による慰謝料請求権の相続を否定する趣旨であるというのが学説の立場です。

 しかし、安全配慮義務や医療過誤など債務不履行となる場合の生命侵害に関しては、民法第711条は適用されないというのが判例の立場ですから、慰謝料請求権の相続を認めるというのが実務上妥当な判断となるのではないかと思います。

 実務上、損害賠償に関しては判断が難しいこともありますし、賠償請求する相手方との兼ね合いもあるので、早合点せずに専門家に相談することをお勧めします。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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