終末期医療に関する考察

相続の仕事をしていると相談や依頼は当然の如く相続のみならずその周辺の事柄にまで及びます。相続開始前であれば、一般的には相続を含めて終活ということになります。

今回は、相続開始直前時期となるであろう「終末期医療」の問題について考えてみたいと思います。

 終末期医療という言葉からすぐに連想されるのが「延命医療」です。延命治療を行うか否かということが焦点になってきますが、ここでいう延命治療とはどの程度のものなのかということが重要であり判断していかなければならないことだと思います。

回復の見込みがある延命治療であれば希望するのが当然ですが、単に命の炎を絶やさない生命維持のみを目的とした延命治療に関しては判断が分かれる可能性があります。

現在の医療では「生かす」ということが原則になっているので、何も言わなければ、あるいは希望すればチューブを入れて器械に繋ぎ、可能な限り生かされる(所謂植物状?)ということになります。

しかし、実際にはそのような状態になったときに医療サイドより家族の意向が確認されます。チューブに繋がれて器械に繋がれるような状態は可哀想だから、と思いながらも、生きている姿をみていられるだけでも良い(この世から姿が消滅してしまうより良い)という遺される側の根強い思いが勝ってしまうこともあります。遺される家族はこの両方の思いを調整しなければなりませんが、結構辛いものとなります。

そういうときに助けとなるのが「本人の意思」です。延命治療を問われるときには本人が意思表示をすることが難しい状態ですから、本人に聞くことはできませんが、あらかじめ本人が意思表示をしておくことで本人の意向に沿った形で家族も考えられるのはないでしょうか。

例えば、エンディングノートの作成や医療に関する指示書の作成であり、専門団体を利用した尊厳死に関する書類の作成、公証役場での尊厳死宣言公正証書の作成などがあります。

因みに、尊厳死とは一般に「回復の見込みのない末期状態の患者に対して、生命維持治療を差し控え又は中止し、人間としての尊厳を保たせつつ、死を迎えさせること」をいいます。

このような形で本人が意思表示をしていても家族がそれと違う決定をした場合には、医療サイドはそれに従うことになると思いますから、その点は課題として残りますが、それをカバーする手段の一つとしてアドバンス・ケア・プランニング(A C P=人生会議)があります。

A C Pは本人と家族や医療従事者が、本人の最終段階の医療やケアについて話し合いを重ねて、本人の希望を共有することになりますから、本人の意思と家族の考えにズレが生じることはなくなるのではないかと思います。この制度を利用するには医療サイドの協力が必要不可欠となりますが、必ずしも全ての医療機関がこの制度を取り入れているとは限りません。

いざというとき、医療サイドから家族に「どうしますか?」という問いかけがあったとき、家族がしっかりとした返答(辛い返答になると思います)ができるように、本人と家族でしっかりと話をしておくことが望ましいといえるでしょう。

これは相続にもいえることであり、相続の場合にもあらかじめ(生前に)遺産の配分も含めて相続開始後のことを家族としっかり話をしておくと、相続開始後は円満にことが進みやすくなります。

また、終末期医療の家族の判断時に家族内で考えが別れると後々相続の時に話を蒸し返して争いのモトにもなりかねないので、そういったものは作らないようにしておくことが賢明であると思います。

相続の専門家は終活の相談を受けることもあるでしょう。その場合には単純にエンディングノートを書いておきましょうではなくて、しっかりと中身にも触れていきながら、人生の最終段階である「終末期医療」に関してのアドバイスもして頂きたいと思います。

人の死に際の話ですから一般的には言いづらいことです、家族だからこそ言いたくない触れたくないことかもしれない人生最終段階について、専門家として強い意識を持ったアドバイスが必要な場面もあるかもしれません。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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