おひとり様等の死亡届出

相続や終活を考える上で、準備が必要ですよとお話する対象にいわゆる「おひとり様等」がいます。未婚で子供もいないという将来的には完全に一人になってしまう独身の方のみならず、子供がいない夫婦も片方が亡くなった後は一人になってしまいます(おふたり様と表現する場合もあります)。

 このような「おひとり様等」の場合には、自分自身の人生の終期を考えておかなければなりません。一般的には相続という視点で遺言書の作成等により自分の財産の行方を決めておくということがいわれています。そして、最近は終活という視点で死後事務委任契約等も良く耳にするワードとなってきています。

ここで、ものすごくニッチな話をしたいと思います。

親族等がいない、あるいは、親族等がいても接点が全くないので連絡すら取れない等の場合、「おひとり様」が亡くなったときに誰が死亡届出をするのでしょうか。

戸籍法では、以下の者が「届出義務者」として挙げられています。

①同居の親族、②その他の同居者、③家主・地主又は家屋もしくは土地の管理人。

更に、上記以外で届出ができる者として、①同居の親族以外の親族、②後見人・保佐人・補助人、③任意後見人、任意後見受任者、④病院・刑事施設その他の公設所で死亡した場合には公設所の長または管理人。

ここで、注目すべきことは戸籍法の改正により令和2年5月1日以降、任意後見人(戸籍法改正以前も死亡届出が可能でした)に加え、「任意後見受任者」が死亡届出をすることができるようになったことです。

任意後見人と任意後見受任者の違いを簡単に確認しておきます。

任意後見契約は本人が元気なうちに自分の判断能力に問題が生じたときに自分の代わりに法律行為を行う人を自ら選んで契約を交わすものですが、本人の判断能力が十分にあるうちは任意後見契約は効力を発しませんので、本人が選んで契約をした相手も任意後見人となりません。任意後見契約が交わされてから、契約の効力が発生するまでの間は、契約相手は「任意後見受任者」という立場になります。そして、本人の判断能力に問題が生じてきたときに家庭裁判所に任意後見監督人の選任申し立てを行ない、任意後見監督人が選任されて任意後見契約が効力を発し、その時に初めて「任意後見人」となる訳です。

戸籍法改正前までは、任意後見人になれば死亡届出ができても、任意後見受任者の時には死亡届出ができませんでした。このため、完全なるおひとり様の場合などは、任意後見契約が効力を発生する前に死亡したときには、病院で亡くなった場合を除き、関係者等が死亡届出をできるようにしておく必要もありました。これについては死後事務委任契約の委任事項の設定の仕方の問題になりますので、詳細はまた別の機会にしたいと思います。因みに、病院で亡くなった場合には公立病院の場合には前述しました病院長等が公設所の長という立場で、私立病院の場合には同じく病院長等が家屋の管理人という立場で届出ができます。

 以上のように、戸籍法の改正により、任意後見受任者も死亡届出ができるようになりましたので、認知症対策とともに死後の事務処理という点も合わせて任意後見契約を検討してもいいのではないかと思います。

 尚、任意後見契約が公正証書によって作成された後、公証人によって登記されますので、時期を見計らって登記事項証明書を取得しておくと良いでしょう。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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