嫡出子と非嫡出子の争族に関する考察
約6年前福岡での相続士養成スクールの講義のために出かける準備をしていたときに、たまたまTVのワイドショーで相続に関する話が流れていたので聞き入っていたところ、なかなかの争族となっていた話でした。当時の受講生に聞きましたが誰も知らないとのことでした、暫くその後について報道や記事はなかったのですが、最近その後についての記事が出てきましたので、簡単にご紹介しながら、少し考えてみたいと思います。
それは「京都の紅茶王」と呼ばれた実業家の相続(2005年)に関して、嫡出子と非嫡出子の争いでした。
概要は、以下の通りです。
相続人は、前妻と後妻の間には5人の嫡出子、さらに認知された非嫡出子が1人。
後継者である長男(以後、文章中Aとする)が非嫡出子(以後、文章中Bとする)に対して、「Bの遺産相続分は78,002円である」という内容証明と、「それ以外は何も権利が無いことを認めないと裁判を起こす」という債務不存在確認の文書を送ったことから争いは始まったようです。
Bはそれに応じなかったために、Aから債務不存在訴訟を起こされました(2007年)。
一方BもA側を相手取って遺産請求訴訟を起こしました(2009年)。
以降、
2010年 京都地裁から3,000万円の和解案が出されるも不調
2013年 約589万円の判決に対してBが控訴
2015年 大阪高裁で6,500万円の和解案が出されるも不調
その後も争いが続きました。ここまでが当時取り上げられた内容です。
結局8年間争い、弁護士からは2億円はもらえると言われていたが、経費と弁護士費用で赤字になる程度の遺産しか受け取ることができなかった、手元には何も残らなかった、というのがBの話です。
嫡出子5人に対して、非嫡出子が1人で戦いに挑んだ形になってしまいましたが、このトラブルもう少し何とか抑えることができなかったのでしょうか。
8年という月日を要するということはBのみならずA側にも金銭面のみならず心労やその他にもマイナスの影響等もあったはずですし、何より8年間という時間は取り戻すことはできません。
守秘義務等の関係で詳細が明かされていないので筆者独自の視点での考察となりますが、まず最初出てくる疑問が、「何故いきなり相続分を明記した内容証明を送ったのだろうか、その前に何らかの形でBの意向を確認するようなことはなかったのだろうか」、そして、「相続分78,002円となる根拠はしっかりと提示されていたのだろうか」です。
本人の意向を確認するようなものがなく、いきなり相続分を明記した内容証明を送ったのであれば、ファーストコンタクトから「いきなり」喧嘩腰です。初めて会った人にいきなり拳を振り上げるようなものです。
詳細が明かされていないので、推測の域を出ませんが、最初に送られてきたものが前記のような内容証明であれば、受け取った方は気分を害するのは当たり前です。
相続においては、面識のない、或いは、交流の少ない関係性の薄い共同相続人間では、相続手続きを始める上でファーストコンタクトは大変重要であり、これをミスると最初から拗れてしまう可能性があります。
Aは会社の顧問弁護士にでも依頼したのでしょうか、一般の人が相続分を明記した内容証明や債務不存在確認など簡単には送れないと思いますので、法律のプロがいたと推測されます。
この法律のプロによるものと推測される完全にBを抑え込もうという意思が感じられるやり方が、ここまでの争いに発展させてしまった根本的な原因ではないかと筆者は個人的に考えます。
もし、最初に、例えば、
「あなたに相続権があります。
遺産は負債も含めてこのようになっています。
あなたの法定相続分はこのようになります。
遺産の多くは会社にも関係しています。
会社は従業員〇〇人とその家族も含めて守っていかなければなりません。
あなたにも色々と事情があると思いますが、それも含めて遺産分割に関して一度お話をしたいと思います。」
というような形のファーストコンタクトがあったのならば、もしかしたら進む方向が変わっていたかもしれません。
この争いでBは弁護士を7名変えて、経費は5,000万円くらいかかったようです。
「何とも、まあ~」と呆れてしまうような状況です。
A側もそれなりの経済的損失はあったと思います。いくらかは分かりませんが、最初からBに対して丁寧な対応をしていたら、支払う金額はこの8年間の争いにかかった経費より断然少なかったのではないかと推測します。
相続は弁護士に、と考える方も少なくありません。最初から「争う」という姿勢であれば弁護士で良いでしょう。弁護士は依頼者の利益のために動く(依頼者の代理人)が基本ですから、「他の相続人のことも考えて相続自体をうまく治める」という視点ではないと思っておいた方が良いでしょう。
自分が相続人となった相続はどういう状況にあるのか、最初から争う姿勢なのか否か、しっかりと判断しなければなりません。
「〇〇は使いよう」と言いますが、「士業も使いよう」です。
弁護士、税理士、司法書士、行政書士等、どのようなケースでどの士業を使うか、よく考えて相談・依頼することが肝心です。
このページのコンテンツを書いた相続士
- 行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所
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