相続対策として遺言作成は必須か?

 相続対策として挙げられ手段の筆頭は遺言であることは間違いないのですが、相続の準備をする上で「誰もが」遺言作成をする必要があるのでしょうか。

情報が氾濫している昨今、遺言を作成しましょうというような情報が多く、「誰もが」遺言を作成する必要があるような誤情報を少なからずあります。(専門家を名乗っている人の中にはそのように思っている人も少なくないのかもしれません。)

 遺言を作成する必要があるのか否か、しっかりと考えなければなりませんが、まずやることは遺言者となる者(被相続人となる者)が、自分の財産をどのように後の者に引継ぐのかを考えなければなりません。そしてその引継ぎ方で揉め事が発生するのか否かを慎重に考え検討しなければなりません。その上で準備方法を考える、その手段の一つが「遺言作成」ということになります。

 例えば、財産の承継方法について家族で話し合い、すでに決まっていて家族の共通認識となっている場合には遺言作成の必要性は低いかもしれません。ただし、少しでも「もしかしたら」という点がある場合には、「遺言作成」の必要性は高くなってきます。

あえて方法論の例としてあげるなら、長男に先祖代々の土地建物を全て相続させる代わりに、他の相続人に現金を生前贈与した上で遺留分放棄をさせ、長男に全財産を相続させるというような遺言を作成する、相続人全員がこれについて全て承認した上で実行する、という事例があります。この家族の場合、長男が先祖代々の土地建物を相続することに異論はないものの、相続分の多少で文句が出る可能性(「もしかしたら」)があったため、被相続人となる父親が生前に行なった準備です。

 遺言を作成する必要があるか否かは、家族(相続人)状況や相続財産の性質・状況等が関係してきますので、一概には言えないと思います。

遺言を作成する必要があると判断した場合には、遺言を作成する目的を明確にした上で、遺言事項に関してしっかりと具体的に記しておく必要があります。大まかな指定をすると、内容にもよりますが、その指定の解釈方法に相続人間の違いが出てきてしまう可能性があり争いのもとになりかねません。

そして、忘れてならないのが付言事項です。付言事項をしっかり書くことで遺言事項が生きてくるということもありますので、内容をよく吟味して必ず書くようにしたいものです。

また、相続法の改正により、遺言執行者の重要度が増しました。遺言執行者の指定をするか、指定をするなら誰にするか、遺言者の相続人関係や財産状況等を総合的に考えて決めていかなければなりません。

 相続対策としての遺言、無くても円満に遺産分割が完了してしまう家族もあれば、そうでない家族もあります。

相続対策としての遺言作成は「必要に応じて」ということになりますので、誰もが「必須」というわけではありません。

氾濫している情報に惑わされず、しっかりと考えたいものです。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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