不動産(負動産)と相続放棄
相続財産の中で色々な意味でキーとなるものは不動産です。遺産分割のときにこの不動産をどうするかという点が焦点となることは珍しくありません。
誰もが欲しがる不動産の場合もあれば、誰も欲しがらない不動産の場合もあります。この誰も欲しがらない(相続したがらない)不動産を「負動産」などと表現されることもあります。
被相続人が所有していた不動産が負動産となってしまう理由は様々ですが、今回はこの不動産(負動産)のもたらすリスクと相続放棄についてみていきたいと思います。
相続人が生まれ育った家でも、既に自分自身の家を所有していたり、遠方に住んでいたり、建物が老朽化していて管理が面倒そうだったり、売却が難しいと思われるなど様々な理由により所有することを望まないことがあります。
所有することを望まない場合には、管理行為や管理費用等の負担などを鬱陶しく思い、遺産分割時に当該不動産の相続を拒否することになるので、それが相続人全員の意思だとすると当該不動産は負の遺産となり、負動産となるわけです。
ときには、不動産(負動産)以外の遺産を分割して遺産分割を一旦終了してしまい、不動産(負動産)は後回しにしてしまうようなこともあるかもしれません。その結果、放置された共有状態(被相続人名義のまま)の「空き家」となるわけです。
「空き家」として放置した場合にどのようなことが起こり得るかというと、近所からの些細なクレーム連絡があるかもしれないリスクの他に、不審火による火災、建物老朽化による倒壊など、大きな賠償責任を負うかもしれないリスクがあります。
また、行政庁により「特定空き家等」に認定され、倒壊リスク等の回避のために、行政庁から勧告、命令等が発せられ、(行政庁からあれこれ連絡が来ること自体が厄介なことですが)、結果的に行政代執行が行われると建物解体費用等の負担も免れません。
そのようなリスク回避するために「空き家」となった不動産(負動産)を管理していくにしても、もともと不要という認識があったものですから、管理行為や費用負担等が重荷になってきます。
そんな面倒なことを考えなくても「相続放棄」という手段があるではないかと考える人も当然います。
相続放棄をするためには「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月」という熟慮期間内に手続を行わなければなりません。この場合、次順位の相続人となる人がいた場合には、相続放棄をする(した)旨を伝えておくことも必要でしょう。
また、相続放棄をしたからといって、すぐに責任がなくなるわけではありません。相続人は相続放棄をした場合でも、一定期間管理責任があります。
「相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない(民法第940条第1項)。」
もし、相続権を有する者全員が相続放棄をした場合には、「相続人のあることが明らかでないとき」に該当し、「相続財産は法人となり」(民法第951条)、この場合「利害関係人等の請求によって家庭裁判所により相続財産管理人が選任される」ことになります(相続財産管理人選任:民法第952条第1項)。
相続放棄をした者が相続財産管理人選任手続を行わなければならないという規定はありませんが、次順位となる相続人がいないわけですから、前述した管理責任は継続していきます。同時に「空き家」としてのリスクも抱えていかなければなりません。これらの負担から逃れるためには、他に当該不動産に対する利害関係者がいない場合、相続放棄をした者が相続財産管理人選任手続を行わなければならなくなるのは自明の理とも言えるのでしょう。
ただ、専門家でない一般の人が家庭裁判所に対して手続を行うのは大変な作業となり、弁護士や司法書士に手続等を依頼する場合にはそれなりの費用がかかることを覚悟しなければなりません。
また、相続財産管理人選任後、財産管理費用や相続財産管理人の報酬が相続財産の中から支払えないと判断された場合には、申立人がこれらの費用や報酬相当額を家庭裁判所に予納するという費用負担が発生してきます。
なかなか簡単にはいかないというのが現実です。
相続財産の中に負動産となりそうなものがある場合、可能であれば相続発生前から対処法を考えておきたいものです。
相続開始、蓋を開けたら負動産、というような場合には早めに行動を起こし、決して後回しにしないことが肝心です。
早めに専門家に相談して対応して頂きたいと思います。
このページのコンテンツを書いた相続士
- 行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所
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