争族を避けるために…遺言に関する考察

    相続は争族といわれるように争い事に発展しやすいことですから、それを避けるための方策として一般的に遺言が推奨されています。

 相続のときに争いになるのは「遺産の分け方」について共同相続人の間で話し合いが上手くいかずにお互いに譲らず感情的になってしまうからです。

   遺産の分け方が決まらずに争いになるのであれば持ち主である遺言者が自分の亡き後の財産の行方を予め決めておこうというのが遺言の趣旨であり、その果たす役割は遺産分割においては大きなものといえます。

遺言による指定は、法定相続分を変更できる唯一の方法で指定相続分といいますが、相続開始後の遺産分割においては最も力のあるものと言っても良いでしょう。

しかし、遺言の作成方法やその後の扱い等によっては争いの元にもなりかねません。

   例えば、「自宅不動産を長男の〇〇に相続させる」という財産の一部だけを指定した遺言。

  このように財産の一部だけを指定する遺言を「一部遺言」といいますが、「一部遺言」の場合、他の財産をどう分けるかで共同相続人間で分割協議をしなければならず、ここで話し合いがまとまらなければ争いに発展することもあり得ます。

「一部遺言」で焦点となるのが、指定された財産(例えば、自宅不動産)が遺産分割を決める上でどのような意味合いを持つことになるのか、ということです。

「これだけ」なのか、「これを加える」なのか、「人の解釈」という判断に委ねられてしまう内容になってしまいますので、どのように解釈し判断するか共同相続人間で話し合う必要性が出てきてしまいます。

争いの場となり得る遺産分割協議の場を避けるはずの遺言作成が、もっと厄介な遺産分割協議の場を作ることになってしまいます。

財産の一部だけを指定する遺言は法的には問題ありませんが、実務上は避けるべき方法です。

 そして何とも線引きのし難い問題があります。

   遺言作成後、或いは遺言作成前、相続人に遺言作成を話すべきか否かということです。

相続の専門家を名乗る人の中にも、余計な争いを起こさないためにも遺言を作成したことは黙っておきましょう、と助言する人もいるようです。

果たして、これで良いのでしょうか?

   筆者は以前、相続の専門家を名乗る人から「遺言作成を相続人に知らせる派ですか?」という質問を受けたことがあります。

「知らせる派」という言葉に違和感を覚えながらも、「私は知らせることをお勧めしています」と答えました。

筆者に問いかけてきた専門家は「余計な争いを起こさないためにも知らせない」とのことでした。

余計な争いを起こさないためにも、或いは、文句を言う者が出てくるから、ということは、遺言の内容自体に「争いの火種」となるような「何か」があるということではないでしょうか。

遺言の内容自体に「争いの火種」となるような「何か」があって、遺言作成時に相続人に遺言の内容を明かして争いになるようであれば、相続開始後の遺言執行時に初めて遺言の内容を知った場合には必ずと言って良いほど争いになるのではないかと思います、ましてや相続開始後では遺言者は既に他界していますので遺言者の口から真意を聞くことはできません。

遺言者の意志を実現させるためにも遺言を作成したことは伏せておくべき、という人もいますが、場合によっては、共同相続人(受遺者がいる場合には受遺者を含め)全員の意思と遺言執行者の同意により遺言と異なる遺産分割も可能ですから、遺言者の意志を実現させるために、ということは遺言作成を伏せておく正当な理由にならないと思います。

重要なのは、遺言作成を相続人に明かすか否かに重きを置くのではなくて、遺言の内容自体に重きを置かなければならないということです。

   介護の問題や事業承継の問題などが関係して、一見すると、ある相続人には有利で、ある相続人には不利な遺言内容になることもあるでしょう、しかし、それには相応の理由があるわけですから、内容をよく吟味して、付言事項でしっかり説明をしておくなど、揉めないような遺言内容にしていかなければならないと思います。

さらには、揉めないために、遺言作成だけではなく遺言者から各相続人に対して話をしていくというのも重要です。

遺言者の自らの言葉でしっかりと話し、相続人と話し合うということは最も効果のある争族対策であると筆者は考えます。

相続人と話し合って必要であれば遺言内容を調整し、誰もが納得する形で遺言を作成しておけば、相続開始時には粛々と遺言を執行するだけで良い、という理想の争族対策となり得ます。

   遺言は作成することが目的ではなく、実現させることが目的であり、そこには争いを避けるためという根本的な目的もありますので、遺言者や相続人等の環境や状況等、遺産の種類や状況等、その他遺言作成の要因となるものをしっかりと把握して見極めた上で、+αの準備が必要ではないかと思います。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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