空き家リスクと民法改正

  相続問題の派生問題として(相続の結果として)「空き家問題」があります。「空き家問題」は社会問題として取り上げられ、いかに「空き家」をなくしていくか、「空き家」を増やさないかという課題を解決するために法律的な手段として新法制定や法改正などが急ピッチで行われています。

「空き家」を放置しておくことは当然のごとくリスクを伴います。

 倒壊や火災などは隣家等への賠償問題へ発展する可能性もありますし、竹木等の越境による隣家等とのちょっとしたいざこざもあり得ます。行政機関への空き家に起因する苦情の大半は、竹木等に関するもののようです。

 実際問題としては、越境してきた枝は簡単に処理できる小さなものであれば勝手に切り取ってしまっていることが多いのではないかと思われます。この場合、法律上は勝手に切り取ってはいけないことを知らないことがほとんどのようです。

簡単に処理できる小さなものならともかく、簡単には処理できないようなものは、苦情の対象となると思われます。

 竹木の越境に関して、「所有者に対して枝の切除を請求することができる(勝手の切除することはできない)」というのが現在の法律(民法233条)です。しかし、今回の民法改正(令和5年4月1日施行)により、所有者に請求して枝を切除させるという原則を維持しながら、一定の場合は越境を受けている隣家の者が自ら枝を切り取ることが可能となります。一定の場合とは、①竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにも関わらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき、②竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき、③急迫の事情があるとき、です。

一定の場合には自ら切除可能と言っても竹木等の状況によっては素人では難しいこともありますし、だからと言って放置しておくのも見逃しがたいケースもあります。

しかし切除費用が発生した場合には費用負担という新たな問題が発生し、かえってことを大きくしてしまうことにもなりかねません。(原則は竹木所有者の負担のはずですが、、、)

 では原則に則って法律上の手続きを行い強制執行という手段に出るか、というとこれもまた相当の期間を要しますし、煩雑な手続きや費用負担等を考えると難しい問題となります。

 このように、「空き家」にはリスクが伴いますが、「空き家」発生原因の主なものとして「相続による分割問題」があります。

 不動産を含む遺産を相続する際にどのように分けたら良いのか分からず、また、不動産を相続人全員の共有にすることが公平だという間違えた認識等により、当該不動産が「共有」になっているケースが多々あります。そして、共有状態のまま相続が発生して、共有者が増えていくことで民法上の共有の規定が適用され、当該不動産を適切に処理することができずに「放置された空き家」へと化していくことになります。

「放置された空き家」は、共有者が単独で修理等(変更を加える行為)ができずに空き家特別措置法上の「特定空き家」予備軍となり得るわけです。

つまりは、共有の問題(変更を加える行為は共有者全員の同意が必要など)がネックになるわけですが、今回の民法改正では、「共有」に関しても改正が行われています。

例えば、軽微の変更行為は共有者全員の同意を要さず、持分価格の過半数の同意で可能となります。

ここでいう軽微な変更とは、「その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」であり、費用の多寡を問わないとされています。

変更行為の要件が少し緩くなったようですが、「その形状又は効用の著しい変更を伴わない」という規定は、軽微な変更の明確な規定とは言い難いところがあり、運用を間違えれば別の問題を引き起こしかねいという懸念も少なからずあります。

また、持分価格が過半数に満たない共有者がいる場合の費用負担の問題など実務的にはまだまだ問題は残るように思えます。

  今回、「空き家対策」を見据えた民法改正が行われ令和5年4月1日に施行されますが、遺産に不動産が含まれる場合には、当該相続の要因によっては当該不動産は「空き家予備軍」であることを認識しておく必要があります。

そして、当該不動産をどのようにしていくか、共有問題も含めて、「空き家」として放置されないように前もって対処していかなければなりません。

 相続問題と一緒に、所有不動産の先行きを考えておくべきでしょう。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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