相続財産の清算

 相続財産は一般的には相続人によって承継されますが、相続人がいない場合には別の手段によって管理・清算されます。「相続人がいない場合」という意味には、相続欠格・相続廃除・相続放棄により最終順位の相続人が相続権を有さなくなった場合も含みます。

 最高裁によると2021年の相続人不存在による国庫への相続財産の収入は647億459万円だったそうです。

相続人の有無が不明の場合には、相続財産を管理・清算しながら相続人を捜索し相続人の有無を確定させなければなりません。

そして相続人がいないことが明らかになったときには、利害関係者等の請求による家庭裁判所の審判に基づき「相続財産管理人」が選任され、官報により公告されます。

「相続財産管理人」は改正法により2023年4月1日より「相続財産清算人」となりますが、現時点では改正法施行日前なので、従来の「相続財産管理人」として話を進めていきます。

相続財産管理人による当該被相続人の相続人調査、相続財産調査が行なわれ、相続財産に関する債権者や受遺者への官報公告を経て、当該被相続人の財産に関する清算が行なわれます。

この清算過程で行なわれるものの中に「特別縁故者」の制度があります。

相続財産管理人による債権者や受遺者への公告期間が終了しても相続人がいることが判明しない場合、「相続人捜索公告」というものを一定期間行ない、それでも相続権を主張する者が現れないとき、家庭裁判所は、相当と認めるとき、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に務めていた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求により、これらの者に債権者や受遺者への清算後残存する相続財産の全部または一部を与えることができる、という制度が「特別縁故者」の制度です。

特別縁故者となり得る者には、内縁の夫婦、事実上の養親子、献身的に介護に尽くした者などが挙げられますが、一定期間内に自ら申請しなければならず、申請したとしても認められるか否かは家庭裁判所の裁量によります。

そして、この特別縁故者に対する財産分与が行なわれても処分されなかった相続財産がある場合、その財産は国庫に帰属することになります。

このように、相続人がいない被相続人の財産はその人が亡くなってから直ぐに国のものになるのではなく、いくつかの手続きを経て、尚も残余財産がある場合に国に収められることになります。

事実婚や再婚・再々婚など家族環境が複雑化し易い昨今においては、直系の相続人がいなくても事実上の家族となり得る者やそれに近い関係にある者などがいることも珍しくありません。そのようなときに問題となり易いのが相続の問題です。遺言によって指定を行なっていればいいのですが、遺言を作成していない、或いは、遺言作成が間に合わなかったなどのケースでは「特別縁故者」の制度があることを知っておくと一助となるでしょう。

 相続人がいないということが予め分かっている「おひとり様」や「おふたり様」の場合、自分たちの老後の生活のことで頭がいっぱいということもありますが、その中に、「自分の、自分たちの、この財産を後々どうしようか」ということも考えておきたいものです。

 相続権が無くても親しくしていた親戚縁者等への遺贈や団体・母校等への「寄付」という手段も選択肢の一つかもしれません。

 死んだ後は他人任せではなく、元気なうちに自分の死後の整理を考えておくことも必要なのかもしれません。

 

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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