子供がいない夫婦の相続 その2
前回のコラムで、これから起こるであろう相続についてのご相談の話をお伝えしました。あらためて、現状と相談内容の概要をお伝えします。
【現状】
母親は7人兄弟でうち1人は死去(死去した方には2人の子供有)。存命の兄弟のうち長男A(84歳)が病気で入院中。その妻B(81歳)が先日認知症のため施設へ入居、この夫婦の間には子供無し。この夫婦の主な財産は現金と自宅の土地・建物(北関東・夫婦1/2ずつ所有)と、長男Aが弟Cと1/2ずつ所有する土地(更地・近畿地方)。妻Bは再婚で元夫との間に2人の子供有、親権は元夫。元夫も再婚し、現在の妻とその子供2人は養子縁組をしている。母親は都内在住で長男A以外の兄弟は近畿地方在住のため、長男Aの身の回りの世話などは母親が行っている。
【相談内容の概要】
長男A夫妻の財産・相続について、
1.誰も住まなくなった自宅を処分(売却)することはできるか。
2.元夫との子供に、将来的に財産がわたるようなことにはならないか。
3.2人とも存命なうちに、どのような相続対策ができるか。
【認知症になった後の不動産売却は難しい】
相談内容1については、長男Aの入院が長期にわたっていて多額の治療費がかかっていることと、妻Bについても今後施設の費用がかかることが考えられるため、空き家のままにしておくのであれば売却をして、治療費用や介護費用を捻出したほうが良いということから、このようなご質問を受けました。
結論から言いますと、今のままではご自宅の売却は難しいです。入院中の長男Aについてはご本人が委任状を作成し、親族がご本人の代わりに売却の手続きを進めることは可能です。最終的にはご本人の売却の意思確認が必要となりますが、病気療養中とはいえ判断能力はあるということですので、「自宅を売却したい」という意思表示ができれば問題ありません。
ただ今回のケースはご夫婦の共有名義、しかも妻が認知症だということで話が先に進まなくなります。不動産の売買契約においては相続の遺産分割等とは違い、認知症と判断された方については売買契約を締結できないことがほとんどです。ですので現状では自宅不動産の売却はほぼ不可能ということになります。
このような場合は妻Bに成年後見人を付けて、その後見人が代わりに売買契約を締結することで自宅を売却することが可能となります。ただ成年後見人を付けると、その後は財産の一切を管理され、被後見人にとって必要最低限の財産(主に現金)しか自由に動かすことができなくなります。成年後見人の活用については、その後の関係者の生活等に支障が無いかを含めて慎重に検討する必要があります。
成年後見人制度がある一方で、「任意後見人制度」というものもあります。こちらは本人に判断能力があるうちに「わたしの判断能力が不十分になった場合には、その後の生活や介護、財産の管理などについて代理権を与えます」という契約を結んでおくものです。契約内容は公正証書を作成して残しておき、後見人については親族や各専門化など、自身が信頼できる人から選任することが可能です。
ただ今回のケースでは任意後見人制度は活用できませんので、どのような対策がご夫婦や親族にとって良いのかを検討しながら今後の対策を考えていくことになります。
3の相談内容については、これから当事者と少しずつ話をしていきながら、どのような方策が親族にとって良いのかを考えていくことになります。場合によっては相続人となる方のうち、貰える権利分だけは貰いたいという方も出てくるかもしれません。今回のケースでは相続税はかかったとしても少額になると思われます。相続対策というと税金の話が多く出てきますが、ほとんどの場合は遺産分割の対策が最重要課題です。遺産分割の話がまとまらなければ納税や節税の話にも進みませんので、それよりもまずは、いかに円満・円滑に相続を行うかが必要になってきます。
このページのコンテンツを書いた相続士
- 相続士、AFP
1971年東京都生まれ。FP事務所FP EYE代表。NPO法人日本相続士協会理事・相続士・AFP。設計事務所勤務を経て、2005年にFPとして独立。これまでコンサルティングを通じて約1,000世帯の家庭と関わる。
相続税評価額算出のための土地評価・現況調査・測量や、遺産分割対策、生命保険の活用等、専門家とチームを組みクライアントへ相続対策のアドバイスを行っている。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。
また、住宅購入時の物件選びやローン計画・保険の見直し・資産形成等、各家庭に合ったライフプランの作成や資金計画のサポートを行っている。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。
FP EYE 澤田朗FP事務所
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