相続の現場で多く出てくる5つの利用区分
前回のコラムでは、相続における土地評価に欠かすことのできない「利用区分」についてお伝えしました。
・「利用区分」ってなんだ?
http://www.souzokushi.or.jp/sawada/2110
今回は、利用区分にはどのようなものがあるのか、実際に相続の現場で多く出てくる5つの区分についてお伝えしていきます。
1.自用地
被相続人の土地に自宅があり被相続人やその家族が住んでいた場合や、被相続人が店舗を構えお店を経営していた、といった場合には、その土地は自用地として評価することになります。また、被相続人の子供に無償で土地を貸し、その上に子供が家を建てて住んでいた場合も、自用地として評価をすることになります。
自用地の評価は、その土地の正面路線価をもとに、奥行価格・間口狭小・奥行長大の補正率や側方路線影響加算率など、様々な率をかけて1平米あたりの土地の価額を計算していきます。また、不整形地や無道路地・がけ地など使い勝手が悪い土地については、決められた計算式をもとに一定割合を土地の価額から減額することができます。
このように、それぞれの土地の形状や状態によって減額・加算要因を考慮したうえで1平米あたりの価額を算出したうえで、その土地の地積をかけることで自用地の評価額を算出することができます。なお減額・加算に必要な補正率などは、国税庁「土地及び土地の上に存する権利の評価についての調整率表(平成19 年分以降用)」で確認をすることができます。
・国税庁HP:[手続名]土地及び土地の上に存する権利の評価明細書
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/hyoka/annai/1470-05.htm
2.貸宅地
被相続人所有の土地を他人に貸し、その他人が建物を建て住んでいる土地など、借地権等の目的となっている土地は貸宅地として区分をします。貸宅地の評価額は、先にお伝えをした自用地の評価額から、その土地の借地権割合を引いた額となります。
■計算式:自用地評価×(1-借地権割合)
貸宅地は「底地」とも呼ばれ、上記の「1-借地権割合」は「底地割合」とも呼ばれています。なお借地権割合は、国税庁から毎年公表されている路線価図に掲載されています。HPに見方が掲載されていますので、下記のページでご確認いただければと思います。
・路線価図の説明
http://www.rosenka.nta.go.jp/docs/ref_prcf.htm
3.借地権
こちらは上記の「貸宅地」と逆で、他人から土地を借りその土地に自分の家を建て住んでいる方が亡くなった場合の、その土地の利用区分となります。借地権の評価額は、先にお伝えをした自用地の評価額にその土地の借地権割合を掛けた額となります。
■計算式:自用地評価×借地権割合
貸宅地(底地)と借地権は表裏一体で、この二つの割合を合わせると「1」になります。
4.貸家建付地
賃貸のアパートやマンションが建っている土地が貸家建付地にあたります。被相続人の土地に被相続人名義のアパートやマンションを建て、各住戸を賃貸として他人に貸している「貸家の目的とされている宅地」が該当します。
■計算式:自用地評価×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
「借家権」というのは、家を借りる人(借家人)が大家さんから建物を借りて使用する権利のことです。借家に住んでいる方が亡くなった場合には、この借家権も相続財産の対象になります。「借家権割合」とは、建物全体に対する借家権の割合のことで、現在は国税庁の財産評価基本通達によって、一律30%となっています。
また「賃貸割合」というのは、アパートやマンションの賃貸部分が、相続発生時にどれくらいの割合賃貸に出されていたか、つまり借家人が住んでいたかの割合となります。例えば相続発生時に、全部で12戸あるアパートのうち7戸が賃貸に出されていて5戸が空室となっていた場合の賃貸割合は7/12、とはならずに、「賃貸部分全体の平米数に対する賃貸に出されていた住戸の平米数の割合」で計算されます。従って全体の平米数には廊下やエレベーターなどの共用部は含まれません。また、賃貸部分の「空室」の定義ですが、イメージとしては長期間借り手がなく空室になっているアパートの1室が空室に該当し、空室の期間が1カ月程度であったり、空室になった後すぐに募集をかけていたかなど、「継続的に賃貸されてきたもので、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められる」部分については、空室としないで賃貸割合に含めてもよいことになっています。
・国税庁HP:貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲
https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/hyoka/04/12.htm
5.私道
私道に対する言葉として「公道」があります。国や地方自治体が管理をしている道路で、不特定多数の人に広く提供されている道路と定義づけられています。それに対して私道は、「専ら特定の者の通行の用に供されているもの」と定義づけられています。私道の評価額は、先にお伝えをした自用地の評価額の30%と決められています。
特定の人しか通行しない道路が、自用地評価の3割の価値もあるのか、ということで、相続財産における「私道か私道でないか」といったことが裁判などで多く争われています。該当地が「不特定多数の者の通行の用に供されているもの」として判断ができれば評価額はゼロ、私道として「専ら特定の者の通行の用に供されているもの」として判断されれば評価額は自用地の3割、ということで、「不特定多数の者」か「専ら特定の者」の部分の解釈の違いによって相続財産や相続税の額が大きく変わってくる場合があります。多くは現場を確認して、実態はどのように使用されているのかを確認すれば判断できますが、申告者側と国税側で判断が分かれ、裁判になる事例もあります。
・裁判所HP
平成27年7月16日判決言渡
平成25年(行ウ)第373号 相続税更正及び加算税賦課決定取消請求事件
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=85765
主に以上の5つの区分が現場では多く見受けられますが、上記の私道のように実際の利用形態や土地の持ち分などによって、どのように利用区分を分けるのか判断をする現場にも直面することがあります。その判断によって相続財産の額や相続税に影響が出る場合がありますので、土地の評価は専門家と協力をしながら進めていくことが必要となってきます。
このページのコンテンツを書いた相続士
- 相続士、AFP
1971年東京都生まれ。FP事務所FP EYE代表。NPO法人日本相続士協会理事・相続士・AFP。設計事務所勤務を経て、2005年にFPとして独立。これまでコンサルティングを通じて約1,000世帯の家庭と関わる。
相続税評価額算出のための土地評価・現況調査・測量や、遺産分割対策、生命保険の活用等、専門家とチームを組みクライアントへ相続対策のアドバイスを行っている。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。
また、住宅購入時の物件選びやローン計画・保険の見直し・資産形成等、各家庭に合ったライフプランの作成や資金計画のサポートを行っている。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。
FP EYE 澤田朗FP事務所
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